台湾対話プロジェクトの感想
新垣邦雄
沖縄対話プロジェクト実行委員
(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会事務局長)
私は当初、対話プロジェクトの意義を疑問視していた。沖縄(日本)と台湾との対話の中で沖縄(日本、以下同)の私たちが「戦争回避」を訴えることはできても、統一問題について台湾の中の異なる傾向の主張を持つ方々の間で、共通の方向性を見出す「対話」が成立するのかを疑わしく思っていた。そして実際に、対話プロジェクトを通し、統一問題について沖縄の私たちが望む「戦争回避」「対話による解決」の道筋が見えたわけではない。それでも対話プロジェクトは大きな意義があったと考える。
まず第一に台湾の国民党、民進党関係者の「対話」を設定したこと。なおかつ台中間の統一問題の議論に、沖縄側が関係当事者として参画したこと。民進党、国民党関係者の「対話」は、沖縄以外の例えば東京では実現困難だったであろう。台湾と歴史的に関係が深い沖縄でこその「対話」の場であり、その意義の大きさは、内外メディアの注目度の高さに表れた。また統一問題は本来、台中間の問題であり、特に中国側の外部(中台以外の他国)からの干渉、介入を拒否する姿勢は第3回プロジェクトでも示された。そのような中台問題の議論の場に、台湾有事が現実となればいや応なく巻き込まれる沖縄が関係当事者として参加した意義は大きい。「領土と主権、自治」に関する中台間の問題に沖縄が参加し、「対話による解決を図れ」「日米は介入するな」「沖縄を巻き込むな」と主張した。そのメッセージは台湾、中国政府、両岸の民衆にも届いたはずだ。
台湾対話プロジェクトは中国関係者も巻き込んだ。沖縄・台湾・中国に裾野を広げる「対話」は東京では不可能だっただろう。「台湾統一のため中国は武力行使も辞さない」という強硬姿勢が日本メディアで喧伝されているが、中国関係者は「平和的統一」を強調した。台湾による独立、また外部勢力による「台湾独立」の加勢がない限り、「武力統一」に踏み切ることはない、と言明した。この言質を引き出した意義は大きい。私は沖縄の主張として「いかなる事態であっても、中国による台湾の武力統一に反対する」「日米の武力介入に反対する」と伝えた。このメッセージも台湾、中国政府に届いたことだろう。
統一問題は基本的に台中間の政治プロセスの問題だが、台湾メディア関係者や沖縄側の意見の中で「米国の関与」「日米の関与」の問題が提起された。米国、米軍、特に在沖米軍は海峡問題に深く関与してきた。1950年代の沖縄から中国への核攻撃計画も明らかになっている。台中の統一問題は米国のアジアにおける軍事経済覇権戦略、「中国封じ込め」戦略に関る米中問題であり、近年は日本・自衛隊の米国戦略への一体化による日中問題の様相を強めている。昨年、民進党に近いとされる台湾の学者らが米国の関与政策を批判する声明を発表した。同9月にノーモア沖縄戦の会の具志堅隆松共同代表が招請された台湾での講演会は「大国(日米)の介入」を批判、「在沖米軍基地撤去」の横幕が掲げられ、対話プロジェクトに登壇した台湾メディア関係者も参加した。同11月に那覇でノーモア沖縄戦の会が開いた講演会で台湾労働人権協会の講師は「台湾有事=日本有事論は、台湾を助けず、戦争を誘発する」と主張した。台中の統一、台湾の独立問題にとって、米日の戦略的関与の問題をどのように考えるか。対話プロジェクトでの議論は深まらなかったが、今後の重要な検討課題となろう。
対話プロジェクトは沖縄県の自治体平和外交の先導役となり、示唆を与えた。プロジェクトメンバー小松寛氏が自治体外交の指針を審議する万国津梁会議委員に選出された。
対話プロジェクトが目的に掲げた「対話による戦争回避」をどのように継承するかが課題だ。ノーモア沖縄戦の会は、沖縄・日本の戦争準備に反対する「国内連帯」、台湾、中国との対話。フィリピン、韓国などアジア、アセアン、米国市民に協力を広げる「国際連帯」、国連、国際社会への発信を図りたい。