趣意書
「台湾有事」を起こさせないために
2022年2月、ロシアはウクライナに侵攻し、人類は21世紀にいたっても戦争を克服できないという恥辱と汚辱の歴史に、新しい1ページをさらに加えた。その上ロシアは核兵器使用の威嚇を行い、国際社会がそれまで曲がりなりにも行ってきた核管理の努力を空しくした。この戦争の背景には、米国とNATOによる東方拡大政策があったと言われる。しかしいかなる理由があろうとも、この戦争を始めた国と指導者は最大限に糾弾され、そのもたらす結果に責任を負わなければならない。
そして改めて鮮明になったのは、戦争の最大の被害者は、その地域に住み、日々を営んでいる普通の、罪なき人びとだということである。
ロシアの侵攻以降、東アジアでは、「台湾有事」(中国の台湾への武力侵攻)を危惧する議論が起きている。そしてその「有事」に対処するためとして、台湾、南西諸島の軍事力強化が叫ばれている。しかし、もしこの地域で戦争になれば、台湾、沖縄はもちろん、日本、中国を含む東アジア全体が壊滅的な被害を被ることになる。
ヨーロッパと違い、台湾であれ沖縄であれ島であって、住民が陸伝いに避難することは到底不可能である。被害はさらに悲惨なものになるだろう。
この地域に住む私たちがまずしなければならないのは、万が一にも戦争を引き起こさないことである。そのために出来る努力はすべて行わなければならない。
戦争、「台湾有事」を引き起こさないことこそ、この地域に住むすべての人びとの「共通の利益」である。
当然、この地域にあるすべて政府は、外交の努力、対話の努力を尽くさなければならない。私たちはそれを強く要請し続ける。ウクライナの事態は、緊張と対立を緩和するべき外交の失敗であり、米国・NATOとロシア双方による軍事的威圧とウクライナへの内政介入が昂じた結果とも言えるからだ。
沖縄は第二次世界大戦の末期、本土(日本)の「捨て石」とされ、住民を巻き込む地上戦の舞台となり、20万以上の死者を出す凄惨な経験を持つ。沖縄では、「台湾有事」の際、出撃基地となるであろう沖縄の米軍基地こそが脅威の源泉であるという認識が広まっている。日本政府は、最近、奄美、宮古島、石垣島など、これまで軍事基地のなかった島々に自衛隊の基地を新たに建設し、中国を牽制しようとしている。そしてその基地は米軍と共同使用されるという。この地域に住み、日々を営む人びとの命と生活が、再び日本政府の行為によって脅威にさらされている。端的にいえば、沖縄は再び本土(日本)と米国の「捨て石」にされようとしているのである。
私たちは、この地域で決して戦争を引き起こさせてはならないと考える。
ウクライナの事態は、台湾にも衝撃を与えた。台湾では民主化の進捗に伴い、「台湾意識」と称される台湾を主体としたアイデンティティが高揚した。そして従来までの「一つの中国」の枠組みを拒否する蔡英文政権の発足後、台湾海峡両岸の(公的・準公的)対話は断絶状態に陥った。「一つの中国」枠組みを崩そうと中国(大陸)を挑発する米国政府と、これに対抗する大陸側の軍事的な圧力も強まっている。仮に、大陸側の台湾侵攻に対抗しようとすれば、台湾自身が軍事力の強化を図るとともに、米日に対する軍事協力を要請するという方向が考えられる。しかし、その場合、先に見たとおり沖縄の米軍基地や自衛隊基地が攻撃目標となる可能性が高く、沖縄の人びとの脅威感(意識)を高めることになる。
いわゆる「台湾有事」を起こさせないことが、この地域の「共通の利益」であるが、その利益を実現するためにどのような方策があるのか、「抑止」に頼る以外にないのか、この地域に住み、生きている者同士として対話し議論し知恵を絞りたい。
安倍政権から菅・岸田政権まで、日本政府は米国政府とともに対中軍事抑止の強化に精力を注いできた。年末には「敵基地攻撃」を含む国家安全保障戦略を策定し、南西諸島のミサイル基地化など日本の軍事力を強化する方向を鮮明にする可能性が高い。
有事は起きてからでは遅い。外交と対話を通じて、安全保障面で相互不信が高まる一方の中国と、ハイレベルの交流と対話を進めることこそ有事を防ぐ数少ない外交の道である。
民間にある私たちにも出来ることがある。国交のない台湾の市民と交流し、つなぎ、対話し、互いに理解し、「共通の利益」のために努力することである。
まずは、沖縄と台湾の間で市民対話を行い、やがて、それを日本、中国、米国の市民の間の対話にも発展させ広げていきたいと考える。
2022年5月3日
「南西有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクト実行委員会