2022年9月20日
企画書
タイトル:「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクト
第一期:沖縄・台湾対話連続シンポジウム
期間:2022年10月―2023年9月
趣旨
ウクライナ戦争以降、米中対立を背景に「台湾有事」を煽る言説が過熱している。中国の台湾侵攻があたかも前提であるかのように、先島から奄美、九州南部にかけて日米の基地建設、軍備強化が急速に進んでいる。しかし、実際に戦争になった場合に戦場となり壊滅的な被害を被るのは、島である沖縄と台湾である。もちろん、日本本土も中国大陸も無傷どころか大きな損害を被ることになるだろう。経済的な力と同時に軍事力を高める中国に対しては、ハイレベルの交流と対話、外交を進めることこそ有事を防ぐ道である。しかし現状は日本・台湾両政府とも、対話、外交よりも、米国に依存した軍事的な対処を優先させているようだ。このままでは、軍事力以外の選択肢が狭められ、そこに暮らしている住民は避難と動員の対象となってしまう。それは、沖縄住民にとっては、77年前の「沖縄戦」の再現に他ならない。日本本土の「捨て石」となり、住民4人に1人が犠牲になった戦争の再現は、決して起こさせはならない。「捨て石」とされた沖縄住民にとってだけでなく、「捨て石」にした本土住民にとっても、二度と沖縄を戦場にさせないことが課せられた責任である。
外交はこの地域の各政府が行うことであり、私たちはそれを強く要請していく。同時に、民間である私たちが行いたいのは、沖縄の人びとと台湾の人びとを対話でつなぎ、沖縄と日本(本土)、沖縄と中国、沖縄と米国の市民を対話でつなぎ、交流し、「共通の利益」を見いだしていくことだ。「共通の利益」とは、この地域で殺し、殺されることを絶対に防ぐことである。
まずは沖縄と台湾の市民が対話を重ね、絶対に「台湾有事」「沖縄有事」を起こさせない、しかも緊張を高める一方の「抑止と対処」という軍事一辺倒の方法に依存しないという声を一つにしていくことから始めたい。
背景
2021年8月のアフガニスタンから米軍の完全撤退によってアメリカ軍事戦略は中東での対テロ戦争から対中国の封じ込め戦略に本格的にシフトした。さらにロシアのウクライナ侵攻以降、日米両政府は、「台湾有事」(中国の台湾への武力行使)に対処するためとして、台湾、南西諸島の軍事力強化を急速に進めている。2022年5月の日米首脳会談では対中国の抑止力・対処力の強化を表明。日米同盟は事実上対中国の軍事同盟として機能することになった。
台湾では「一つの中国」の枠組み拒否を志向する蔡英文政権の発足後、台湾海峡両岸の(公的・準公的)対話は断絶状態に陥った。さらに「一つの中国」枠組みを崩すかのように中国(大陸)を挑発する言動を繰り返す米国政府と、これに対抗する大陸側の台湾への軍事的な圧力も強まっている。
米中両政府の軍事的緊張が高まるなか双方が抑止力と対処力を高め軍事的な挑発と牽制の応酬に陥る事態となっている。近い将来米軍と中国軍が一直触発の状態から衝突に発展する危険性も否定できない。そうなれば、台湾はもちろんのこと日本も戦争に巻き込まれる。日本は存立危機事態が適用され集団的自衛権を発動することになる。
もしこの地域で戦争になれば、台湾、沖縄はもちろん、日本、中国を含む東アジア全体が壊滅的な被害を被ることになる。ヨーロッパと違い、台湾であれ沖縄であれ島であって、住民が陸伝いに避難することは到底不可能である。被害はさらに悲惨なものになるだろう。台湾においては民間防衛に関するハンドブックなるものがつくられ、日本・沖縄でも国民保護法に基づく国民保護計画の作成が進んでいる。しかしいずれの措置も戦争をすることを前提に作られるものであり、戦争が起こった場合のリアリティに欠けている。百害あって一利もない。戦争を起こさせないことこそが市民にとっては最大の国民保護である。
目標
「台湾有事」「沖縄有事」を起こさせないという「あらゆる政治的な立場を超えた」共通意識を醸成し、広げていく。
方法
政治的な立場や意見の違いはあっても「台湾有事」「沖縄有事」を起こさせてはならないと考える学者、ジャーナリスト、企業人、市民が様々な対話セッションで対話する。対話とは意見を異にする者同士が、(一個の人間として相手に向き合い)、相手の意見を尊重しつつ相互に共通点を見出し、意見の違いを乗り越えていくプロセスである。相手の考えを理解し、自らの考えをも理解してもらう相互作用を通して、新たな気づきが生まれるプロセスでもある。小異を捨て大同に就くの「大同」とは戦争を起こさせないという一点に尽きる。戦争と暴力の反対語は平和ではなく対話である。平和はという言葉は「平和を守るための戦争」「平和を維持するための武力」「正義のための戦争」といった独善的な政策に容易に絡めとられる。対話の必要性を訴え続け、市民自らが対話を実践することで政治指導者に対話を促すことも必要である。
目的を達成するための方法としての活動
1.対話セッション
対話セッションは1)から3)で構成される。
1) 沖縄対話プロジェクト発足イベント(プレ企画)
プレ企画として本番の対話セッションの前に対話の前提となる歴史と現状のファクトを共有する。続いて「今なぜ対話か」「対話の重要性」について主催者側、有識者、若者、女性、平和活動家、企業人、台湾人有識者から発言してもらう。プログラムは以下
コーディネーター:与那覇恵子(元名桜大学教授)
■発足挨拶
*開会挨拶 対話プロジェクトの意味
岡本厚(沖縄対話プロジェクト共同代表、前岩波書店社長)
■基調講演
中国とどう向き合うか 丹羽宇一郎(元駐中国日本大使、元伊藤忠商事会長)
■ファクト共有のための講演
* 「台湾有事」はどう起こされるか 岡田充(ジャーナリスト)
*台湾の世論は「台湾有事」をどう論じているか 本田善彦(ジャーナリスト、台湾在住)
■台湾からのメッセージ
■沖縄からの訴え ―「台湾有事」「南西諸島有事」を起こさせないために
*宮城弘岩(沖縄物産企業連合会長)
*元山仁士郎(沖縄対話プロジェクト呼びかけ人、元「辺野古」県民投票の会代表)
*玉城愛(沖縄対話プロジェクト呼びかけ人、元オール沖縄会議共同代表)
■世界の現場から沖縄・台湾へ
*谷山博史(日本国際ボランティアセンター前代表) 対話の灯火を掲げよう
■閉会挨拶
*新川明(元沖縄タイムス社長)
2)沖縄・台湾対話シンポジュウムと総括集会
本プロジェクトのメインのシンポジウムである。シンポジウムは3回開催し、4回目は総括集会とする。
シンポジウムと総括集会のポイントは以下。
〈シンポジウム〉
①沖縄と台湾でそれぞれ異なる立場、背景をもった人たち二三人づつに登壇してもらう。初めに戦争を起こさせないためにどうしたらよいかを発言し、その後全員の意見を聞いたうえでの感想を述べあう。総括として共通のポイント、並びにすり合わせるべき意見の違いを明確にする。
②登壇者は沖縄、台湾ともに有識者、ジャーナリスト、活動家、市民、学生など様々な立
場のひとであるが、沖縄では例えば辺野古新基地建設を反対する立場と容認する立場のどちらも排除せず敢えて同席してもらう。また台湾では一つの中国に批判的な与党民進党系の立場と一つの中国を認める野党国民党系の立場も排除せず敢えて同席してもらう。
③一年のプロジェクト期間中に3回開催する。2回目以降は冒頭で前回及び前回までの議論の論点を共有する。およその開催時期は、
一回目:2023年2月12日(沖縄タイムスホール)
二回目:2021年4月
三回目:2023年6月
〈総括集会〉
3回のシンポジウムのまとめの会。この会の目的は意見の違いは残したうえで、3回のシンポジウムを通して「台湾有事を起こさせない」「沖縄有事を起こさせない」ために最も重要かつ共通のメッセージを発することである。このメッセージを対話プロジェクトの総括アピールとしたい。このアピールをいかに沖縄、台湾、日本、アメリカ、中国に広げていくかについての方法についても問題提起する。
開催時期は2023年8月をめどとする。
3)沖縄・台湾サブ企画
プロジェクト期間中に様々な対話自主企画が開催される。規模や形式は問わないが、異なる立場の人たちが対話によってどのような気づきがあったのか、共通の認識は得られたのかが重要となる。自主企画であるが「『台湾有事』を起こさせない・沖縄対話プロジェクト」の名を冠してもらうことで、本プロジェクトの一環として位置付ける。
メインのシンポジウムの各回、および総括集会で議論のポイントを共有し、議論やアピールに厚みをもたせる。
一番の狙いは、沖縄(および台湾)の保守・革新、基地反対・賛成の分断を乗り越える対話の取り組みの輪を広げることである。かならずしも本プロジェクトの自主企画としての位置づけでなくとも、対話の企画が様々な場面で行われる機運が生まれることが大切である。
<ダウンロード>沖縄対話プロジェクト企画書(2022年9月30日版予算メンバー除く)(PDF,800KB)
<ダウンロード>沖縄対話プロジェクト予算(収入除く)(Excel, 16KB)