2024年2月で、「「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクト」は一連の企画を終えました。呼びかけ人、実行委員がプロジェクトの感想、意見を表明していますので掲載します。
対話プロジェクトの呼びかけ人をつとめて
沖縄対話プロジェクト呼びかけ人
(沖縄大学地域研究所特別研究員)
泉川友樹
「対話プロジェクト」は正式名を「『台湾有事』を起こさせない・沖縄対話プロジェクト」という。目的はその名の通り「台湾有事」なるものを起こさせないことであり、私は呼びかけ人を最初から最後までつとめたのだが、当の私は「対話プロジェクト」が終了した今も「台湾有事とは何か」「台湾有事はなぜ起こるといわれているのか」を完全には理解できていないし、安倍晋三元首相のいった「台湾有事は日本有事である」というロジックに至っては現在でも理解不能である。私と同じような状況の人もいるかもしれない。しかし、それは「対話プロジェクト」の失敗を意味するものではないと考える。
私の故郷である沖縄、特に宮古島、石垣島、与那国島に中国をにらんだ軍備強化が進み、東京では中国の国土を攻撃できる能力を持てるようにするための政策転換が行われたことは呼びかけ人を引き受けた当初から知っていた。「台湾有事は日本有事」のロジックに合わせて整備が進んでいるようだが、日中両国の間には「日中共同声明」「日中平和友好条約」等があり、二国間の関係において平和的に問題を解決することが謳われているだけでなく、武力の使用や武力による威嚇が禁じられている。最もデリケートな尖閣諸島を巡る問題ですら、双方は警察力での対応に留めて軍事力を使用しておらず、外交による話し合いが続けられている。これが実態だ。台湾を巡る取り扱いについても、1972年の日中共同声明において「台湾は中華人民共和国の不可分の領土の一部であることを中華人民共和国が重ねて表明し、日本は中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重する」としており、その文言の形成過程における外交記録を見ても日本が台湾を中国の一部だと認めているのは疑いの余地がない。これらのことから考えれば「台湾有事は日本有事」というロジックは成り立つ余地がない。私が「理解不能」とする所以である。
理解不能なロジックを用いて、理解不能な軍備強化が進み、故郷の沖縄が戦場になる危険性が高まるという理解不能なことが起きている。私が呼びかけ人になったのは、私自身が「台湾有事とは何か」「台湾有事がなぜ日本有事になるのか」を少しでも理解したいということからでもあった。その「対話プロジェクト」で台湾や中国の有識者、沖縄の研究者・元政治家、本土の元外交官の方々の話をうかがったり、会場の反応を見たりして私が感じたことをいくつか記しておきたい。
1つ目は対話の土台となる基本的事実を踏まえることの重要性だ。「台湾出兵」「日清戦争」「下関条約」「カイロ宣言」「ポツダム宣言」「サンフランシスコ条約」「日中共同声明」「日中平和友好条約」「92コンセンサス」等を知らずして現在の両岸関係やこの問題における日本政府、日本の人々がとるべき立ち位置を議論するのはやはり無理がある。呼びかけ人の一人として、自分たちがいま置かれている状況を理解するためにも、中国大陸や台湾と付き合いがない人たちにも今日につながる近現代史を学び続けることを呼びかけたい。
2つ目は上記の基本的事実を共通の土台にしてもなお、自分と相手方とは認識や解釈に相違があると知ることの大切さだ。その認識や解釈の溝を埋めるのか、あるいは埋めないまま残すことでより高次の共通目標に向かうのか。これらの判断を可能にするのが「外交」であり「対話」なのだと思う。その点でいえば「台湾有事が起こる可能性は高い」と発言した台湾の有識者のお話は私の考えとは大きく異なるものであったが、その見解の相違を認識できたことは個人的に大きな収穫であった。
3つ目は上記2つを可能にするためには「信頼関係の構築」が不可欠ということだ。「あなたのいっていることは信用できない」「あなたは私を欺こうとしている」となってはどのような議論も成立しない。その意味で、今回のプロジェクトで顔を合わせて率直に語り合ったことや、沖縄戦の戦跡を中国大陸や台湾の有識者に見てもらったり、懇親会で親睦を深めたりしたことは大きな意義があったと思う。
個人的には、このプロジェクトを通じ「台湾有事」なるもののアクターは日本、中国大陸、台湾だけではなく、どうやらアメリカが相当大きな役割を演じていることがぼんやりとだが見えてきた。それゆえに、今回の一連のイベントでアメリカ側の当事者の見解を聞く場がなかったのは残念だったといわざるを得ない。今後、同様のプロジェクトが行われるならばぜひ実現してほしい。
いずれにせよ「対話プロジェクト」は終了しても「台湾有事を起こさせない」取り組みは今後も続いていくであろう。その長い道のりで今回の「対話プロジェクト」が今後の展開の基礎となることを呼びかけ人の一人として願う。
以上
「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクトに関わって
上里賢一
沖縄対話プロジェクト呼びかけ人
(琉球大学名誉教授)
このプロジェクトに「呼びかけ人」の一人として参加し、多くのことを学んだ。総括集会も終わり一段落したところで、「呼びかけ人」になった経緯や成果、今後の課題について整理しておきたい。プロジェクト全体としては、岡本厚さんや谷山博史さんが中心になってまとめた「メッセージ」が出ており、これをうけて今後もメンバーの緩やかなつながりは維持し、状況の変化に応じて意見交換ができるようにしよう、ということが確認されており、今後も「台湾有事」を起こさせないために、それぞれの立場で活動していくことになる。
岡本さんから「呼びかけ人になりませんか」という誘いがあり、迷うことなくすぐに賛同した。「台湾有事」が喧伝され、辺野古の新基地建設の裏で、故郷の宮古島を含め石垣島・与那国島などで自衛隊基地建設とミサイル配備が急速に進められていくことに切迫した危機感をもっていたからである。そもそも「台湾有事」とは何か、その内容も曖昧なまま中国脅威論が高まり、中国の脅威に備えるという理由で南西諸島の軍事要塞化が一気に進んだ。避難訓練やシェルター設置などが、話題になったりした。沖縄戦の経験から私たちは何を学んだのか、虚しい思いに押しつぶされそうになっていた時期である。
このプロジェクトの成果の第一は、台湾・中国の報告者が率直に台湾・中国の現状を話されたことである。台湾・中国の内部は多様で複雑である。たとえば台湾は、そこに住んでいる人も原住民・本省人・外省人の区別がある。人口のほとんどは漢民族(本省人・外省人)だが、全人口の2%ほどのアミ族やパイワン族など16部族ほどの原住民がいる。本省人は明代以降に大陸から移住した漢民族で、福建系・客家系に分かれる。外省人は戦後国民党とともに入って来た人たちである。中国大陸にも50を越える少数民族がおり、人口・領土とも巨大な国である。北と南、東と西、沿岸部と内陸など、台湾よりも多くの民族をかかえ地域差も大きい。台湾・中国を代表させる報告者の選定は、おそらく誰を選んでも異論が出るだろう。これを承知で人選し、実施したのである。このことの意義は、今後ますます大きなものとして残るだろう。
成果の第二は、いわゆる「台湾有事」が、アメリカによって作られ、日本が追随して煽っているもので、台湾が「現状維持」の姿勢を貫いていく限り、武力による統一の可能性はない、ということが確認できたことである。「台湾有事を起こさせない」という、本プロジェクトの趣旨の実現のため、南西諸島の軍事要塞化や「敵基地攻撃力」のためのミサイル配備など、国内における戦争準備に反対していくことの大切さを自覚させられた。
第三は、沖縄の若者が会議の進行・通訳・報告者・コメンテーターなどの大役を担い、今後の沖縄の進路に一定の展望を開いたことである。沖縄には沖縄の研究者が中心になって、台湾・中国の研究者と連携して作っている民間の研究組織がある。「琉中歴史関係国際学術会議」(以下「琉中学会」と略)である。1986年に第1回大会が台北で開かれてから、2年に1回のペースで沖縄・台湾・中国で持ち回りで開かれおり、第18回大会が、2024年11月に福建師範大学で開催予定である。さらに、沖縄県の文化事業として国際的にも注目されている「歴代宝案」編集事業では、沖縄県教育庁と中国の第一歴史档案館が協定を結んで、史料提供・研究交流を進めている。すでに30年を越える巨大プロジェクトだが、事業はまだ継続している。これに加え県内大学の研究交流の実績も豊富にあり、これらの実績は今後の沖縄と台湾・中国との交流の参考になるであろう。
課題を一つ述べたい。同時通訳の養成の必要性である。1990年代に、大田昌秀県知事のもとで策定された「国際都市形成構想」があった。その構想の実現のために、英語と中国語の同時通訳の養成が県の事業として立ち上がったが、県知事が変わるとその事業もしぼんでしまった。同時通訳は、英語や中国語を政治・行政、安全保障・基地、貿易・経済、医療・衛生などの専門分野について、その緊急性に応じて順番をつけて計画的に進めていこうというものであった。今度のプロジェクト実施に際して、中国語の話せる研究者はいるが、台湾・中国の政治・外交・安全保障・軍事について中国語で議論できる専門家が、沖縄に少ないことを痛感させられた。
これから、中国の存在はますます大きくなると言われる。好きとか嫌いとか言っておれない。否応なく隣人として付き合っていかなくてはならない。貿易や旅行などで双方の人・物の移動は拡大していくに違いない。言葉は交流を支え、人と人の理解を深める基本である。外国語の習得には、長い時間と多様な経験が必要である。今回のように専門的知識を必要とする通訳は、一朝一夕には育たない。長期的な計画のもとに時間をかけて育てるものである。
沖縄県に地域外交室が新たに設置された。ここで是非、英語と中国語の同時通訳の養成に取り組んでもらいたい。中国との交換留学生派遣や青年・学生の交流に力を入れてもらいたい。そのためには、琉球大学をはじめ県内大学の台湾・中国との交流事業とも提携して中・長期計画を策定し、その中に同時通訳養成を組み込んで欲しい。沖縄を東アジアにおける平和構築の拠点とすることを目指し、国際会議を活発に開き、貿易を拡大し研究交流を盛んにするためにも、同時通訳養成は沖縄が緊急に取り組むべき課題である。
先に紹介した「琉中学会」や「歴代宝案」編集事業など、この40年近い学術交流の経験から、学術交流における主体性の保持、研究の自由やタブーとの闘い、それぞれの国(地域)の政治権力との距離の取り方等、沖縄には多くの経験がある。中国との六百年の交流の歴史は、日本の他の地域にはない大きな財産である。これからも試練はあるだろうが、沖縄の歴史と地域特性を生かして台湾・中国との対話の結節役となりたいものである。幸いなことにそれぞれの地域で、その担い手となるべき若手は着実に成長している。本プロジェクトは、沖縄が台湾と中国の潤滑油の役割を果たせる可能性を示すものになったのではないだろうか。
沖縄対話プロジェクトに参加して
神谷美由希
沖縄対話プロジェクト呼びかけ人
(ゼロミッションラボ沖縄理事)
私はこのプロジェクトからたくさんの宝物をもらったなと思っています。まずは呼びかけ人、実行委員の皆さんとの出会いです。それぞれの分野の第一線で活躍されている皆さんからたくさん勉強させてもらいました。同じ呼びかけ人になれたことが光栄で誇りでした。
また大きなシンポジウムでの登壇を経験させてもらいました。最初はこの難しい分野で登壇することはプレッシャーがすごくあって怖かったです。でも「自然体でいいんだよ」と同じく登壇する高嶺さんが言ってくださって、なるべく自然体を意識して挑みました。実際に登壇してみると、話せている自分がいました。この登壇や司会の経験は貴重でした。
そして台湾や中国の皆さんの考えを聞くことが出来たことは大きく、何も分からなかったところから少しずつ理解ができるようになりました。中国の方々との対話で、台湾有事と騒いでいるのは日本の政治やメディアだということが分かり西側メディアの情報に偏っていたことにも気づけました。中国の登壇者の方が、台湾が独立を宣言したり、外部勢力が干渉しない限り武力侵攻はないという話を聞いて、日本の干渉を止めないといけないと思いましたし、はっきり明確に示してもらって良かったです。
そして、中国や台湾の参加者とのつながりを作ることができたことも大きい収穫です。シンポジウムが終わった後も、連絡をとりあっていて、シンポジウム登壇者の呉先生から紹介してもらった同世代の青年とも日中友好訪中団で北京に行った時に、会えて仲良くなることができました。沖縄の問題を共有したら「なにか私たちにできることはありませんか。応援したい」と言ってくれました。このような人間的な愛のある優しいコミュニケーションを日本、中国の方たちができたら、戦争なんてことは考えないはずだと思いました。日本の人たちの中国の方への意識を変えていくことはとても重要だと思っています。
また若者とシニアの協働の最初のきっかけを、若者とシニア世代が対話したサブ企画で作ることが出来たことは大きく、その流れが県民平和大集会につながりました。
これからも対話プロジェクトで実践した対話や交流を大切に、行動していきたいと思っています。
さまざまな対話の回路を持つ
高嶺朝一
沖縄対話プロジェクト呼びかけ人
(元琉球新報社長)
岡本厚さんと谷山博史さんに声をかけていただいて、呼び掛け人に名前を連ね、シンポで私の出番までつくっていただき、関係者、裏方として支えていただいたみなさんに感謝しています。「対話プロジェクト」は私にとって刺激的で、触発されることが多かったと思います。このプロジェクトでまかれた種はいろいろなところで育ち、広がっていくでしょう。
成り行き上、政治、軍事的なテーマになりましたが、支持基盤、世代の違い、また職業、専門分野などを超えてフリースタイルで論議したのが良かったと思います。さまざまな「対話の回路」を持つことが争いの回避に必要です。
台湾海峡を巡る問題と琉球弧を中心とする日本の軍事化は、ワシントンと東京の政治に原因があって、沖縄はもちろん台湾、中国にも責任はないでしょう。ワシントンの側につくか、北京につくかという話ではない、と思います。
安全保障、地政学、地経学はワシントン、北京、東京、台北で考えるのと奄美を含む琉球弧の島々で考えるのとでは違います。
軍事化(militarization)は「ある地域に軍事力を持ち込むこと」であり、「軍事化は国内の安定にも対外的な平穏にも寄与しなかった」「地域の軍事化が激しくなると、地域住民が抑圧される危険性が高まる」(ケンブリッジ辞書)とされています。いま私たちの身のまわりで起こっていることです。琉球弧の非軍事化宣言、非武装宣言の機運が高まってくることを期待しています。
「沖縄対話プロジェクト」を終えて
沖縄対話プロジェクト共同代表
(元名桜大学教授)
与那覇恵子
「沖縄対話プロジェクト」立ち上げの背景には「沖縄の戦場化」があった。2021年末日米共同作戦計画で沖縄が「台湾有事」の際に戦場となると県内2紙が報じ、それ以降、急速に進む沖縄の戦場化に抗し「沖縄を戦場にさせない」ための取り組みであった。誰もが戦争は嫌だし、起こさせない努力が重要と考えると思うが、台湾や中国、日本、沖縄、それぞれに、また、それぞれの中に考え方の違いがある。まず「台湾有事」について、「中国が起こそうとしている」と考える中国脅威論と「米国が起こそうとしている」と考える米国代理戦争論がある。戦争反対でも「軍事力増強によって戦争を防ぐことができる」という抑止論的意見と、「軍事力増強によって戦争が誘発される」という沖縄戦の教訓に示される意見とでは真逆の考え方となる。日本国内では「米軍が日本を守る」と考える意見と「米軍が戦争を誘発する」という考え方も真逆だ。それら意見の違い、対立を乗り越え、共通目的として「台湾有事を起こさせない」「沖縄も台湾も戦場にさせない」に辿りつこうとする試みが「沖縄対話プロジェクト」だ。市民による平和外交努力とも言える。
対話プロジェクトは『政治的な立場を超え、「台湾有事」を起こさせないという共通意識を広げる』ことを目的とし、「意見を異にする者同士が相手の意見を尊重しつつ相互に共通点を見出すことで違いを乗り越えていく作業」である「対話」によって戦争を回避する試みであることは発足集会で確認された。ディベートが好きな私は大学でも英語ディベートを教えるが、ディベートでは、意見を異にする者同志がそれぞれの意見を主張し合い、その論理力や表現力などを第三者が評定することで勝ち負けを決定する。互いの意見の違いを乗り越え共通点を見いだすことで問題解決を探る「対話」とは全く異なる。試合となるディベートでは、反論のために耳を傾けるのであるが、対話では、相手を理解するために耳を傾ける。対話をキーワードとするこのプロジェクトは、その手段を含めて私にとって多くの学びを提供する機会となった。
2022年10月15日の発足集会に始まり、台湾、中国のゲストを招いての3回の対話シンポジウム、2024年1月21日の総括集会という流れを振り返って言えることは、台湾や中国の方たちとの対話を通して、お互いを知り理解しあうという最初の段階を達成することができたということだ。台湾の歴史を背景にした複雑な政治社会状況が対面を通して理解できたし、沖縄戦や米軍占領を経ての沖縄の平和への希求、反戦の土壌を戦跡ツアーや対話を通して理解してもらえたと感じた。中国に対する感情は多様だとしても、中国の武力行使による「台湾有事」が台湾の人達には危機として捉えられていないなかで、日本では日本有事として煽られ戦争準備が強化されているという奇妙な状況が浮き上がって見えてきたのは成果だった。実現が危ぶまれるなか、中国からのゲストとの対話が実現できたことも大いなる成果だった。中国側からの意見も中国政府として武力による台湾統一は考えておらず、日米により中国脅威が煽られている現状を警戒、憂慮している状況であることを明らかにするものだった。「台湾も台湾海峡も有事にならない。その前提条件は日本政府が台湾海峡で問題を起こさないことだ」との厳安林さんの指摘は日本への警告として心に留めおくべきものだ。
お互いを知って理解した次の段階として、私たちは違いを乗り越えて共通点を見つけられたのか?違いを認識する場もあったが、戦争は欲していないとの思いは共通していると感じたものの、戦争を起こさせないためにどうするのかという具体的行動を共に考えるところまで行き着くことはできなかった。台湾有事とは何かという認識に違いがあれば、その解決方法に違いが出るという当然のことからして行動としての統一は難しいと言わざるを得ない。しかしながら、国として日本政府が戦争を起こさせないために台湾や中国と対話をしているかとの問いに、殆どが否と答えるだろうことを考えると、政府がやらないことを市民としてやったとの自負は持っても良いのではないか。シンポジウムで台湾や中国の方々の話に耳を傾けて下さった会場の皆さんが、彼等と空間を共有し、共通する問題を真剣に考える時間を共有したことで、同じ東アジアで隣国に生きる人達に親近感を抱き、反戦の気持ちを高める機会になったのではないか、などと思う。オンライン会議が多くなったコロナ後の社会で、顔を見て対話することで人と人は繋がりあうことができるという体験は貴重だったし、それが国と国とが繋がりあう基本だと感じることができた。
「台湾有事」をどう捉えるかの意見は様々でプロジェクトに関わる私たちの間でも異なるが、私個人の意見としては「台湾有事」が言われ始めた当初から、「米国が起こそうとしている」日本を利用した米国代理戦争と理解していた。そのことで誰が得をするか?シンプルに考えれば物事の本質は明らかになってくるものだし、その事件の背景としての歴史が教えてくれたりする。有り難いことに裏付け証拠は全て米国が提供する。ウクライナ戦争の仕掛人が米国であることは、オバマ元大統領も認めたオレンジ革命での米国介入やミンスク合意は最初からロシアを騙すものであったとのメルケル前独首相の証言、2019年のランド研究所レポートなどが示す。裏付け証拠無く台湾有事を言い出したのは米軍トップで、台湾有事とは米国の対中国への軍拡、覇権争いが目的と2022年10月の米国国家防衛戦略に明記されていると軍事評論家の小西誠氏は述べる。2019年からの米国の対台湾政策が、最大規模の武器売却、閣僚・高官の頻繁な派遣、頻繁な軍用機の離発着や米軍艦の航行、米軍顧問団の台湾軍訓練など、かつての対ウクライナ政策と酷似しているとの指摘も重要だ。ウクライナ戦争成功は米軍が後方支援、作戦支援拠点を特定しtheater 戦域を設定したからで、今、日本やフィリピンでもそれをしているとのジェームス・ピアマン中将発言はつい最近だった。
では、今後の課題としては何が挙げられるか?アジアの隣国、台湾や中国との対話は続けられ深められるべきであるが、上記で示したように、やはり東アジアでの危機を煽っている存在として影響力が大きい米国との対話の実現が必要ではないかということだろう。米国市民との対話を通して、東アジアの安全についての意見の違いを乗り越える必要がある。「沖縄の米軍基地が東アジアの平和に貢献している」と安易に言われたりするが、そうだろうか?米軍基地の存在が逆に危機を招いている現状があることを米国市民にも東アジアの隣国の市民にも認識してもらう、沖縄の私たちが抱いている危機感を理解してもらう必要がある。加えて、本来なら最初にすべきことかもしれないが、沖縄と本土との「台湾有事」についてのギャップを埋める必要もある。台湾を訪問して、「台湾有事は日本有事」と安倍晋三元首相が述べ、麻生太郎氏が「戦う覚悟」を強調する日本で、本当に台湾有事は日本有事なのか、日本はどのような戦争を台湾と共に戦おうとしているのか、国民は自らに問う必要がある。対話プロジェクトで台湾の方が語った「中国と台湾の戦争は無いが、中国と米国の戦争はある」との認識は、私には日本よりも台湾が「台湾有事」の本質を掴んでいるということを教えるものだった。この危機は、沖縄だけのものではなく日本のものであるとの認識が日本国民には必要だ。さらに、この危機は「台湾有事」だけではなく「朝鮮有事」にも飛び火しつつあり、あるいは「台湾有事」が勃発しそうに無い場合には「朝鮮有事」が煽られるだろうと考えられ、ますます東アジアの隣国との対話を通しての平和構築を市民の平和活動としてやらなければならない必要性が出てきている。沖縄の私たちにとって、状況は米軍の存在が平和と安全に寄与するものではないことを再確認させるものに過ぎないのであるが、東アジアを戦場にしないために市民としての努力を続けよう。
台湾対話プロジェクトの感想
新垣邦雄
沖縄対話プロジェクト実行委員
(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会事務局長)
私は当初、対話プロジェクトの意義を疑問視していた。沖縄(日本)と台湾との対話の中で沖縄(日本、以下同)の私たちが「戦争回避」を訴えることはできても、統一問題について台湾の中の異なる傾向の主張を持つ方々の間で、共通の方向性を見出す「対話」が成立するのかを疑わしく思っていた。そして実際に、対話プロジェクトを通し、統一問題について沖縄の私たちが望む「戦争回避」「対話による解決」の道筋が見えたわけではない。それでも対話プロジェクトは大きな意義があったと考える。
まず第一に台湾の国民党、民進党関係者の「対話」を設定したこと。なおかつ台中間の統一問題の議論に、沖縄側が関係当事者として参画したこと。民進党、国民党関係者の「対話」は、沖縄以外の例えば東京では実現困難だったであろう。台湾と歴史的に関係が深い沖縄でこその「対話」の場であり、その意義の大きさは、内外メディアの注目度の高さに表れた。また統一問題は本来、台中間の問題であり、特に中国側の外部(中台以外の他国)からの干渉、介入を拒否する姿勢は第3回プロジェクトでも示された。そのような中台問題の議論の場に、台湾有事が現実となればいや応なく巻き込まれる沖縄が関係当事者として参加した意義は大きい。「領土と主権、自治」に関する中台間の問題に沖縄が参加し、「対話による解決を図れ」「日米は介入するな」「沖縄を巻き込むな」と主張した。そのメッセージは台湾、中国政府、両岸の民衆にも届いたはずだ。
台湾対話プロジェクトは中国関係者も巻き込んだ。沖縄・台湾・中国に裾野を広げる「対話」は東京では不可能だっただろう。「台湾統一のため中国は武力行使も辞さない」という強硬姿勢が日本メディアで喧伝されているが、中国関係者は「平和的統一」を強調した。台湾による独立、また外部勢力による「台湾独立」の加勢がない限り、「武力統一」に踏み切ることはない、と言明した。この言質を引き出した意義は大きい。私は沖縄の主張として「いかなる事態であっても、中国による台湾の武力統一に反対する」「日米の武力介入に反対する」と伝えた。このメッセージも台湾、中国政府に届いたことだろう。
統一問題は基本的に台中間の政治プロセスの問題だが、台湾メディア関係者や沖縄側の意見の中で「米国の関与」「日米の関与」の問題が提起された。米国、米軍、特に在沖米軍は海峡問題に深く関与してきた。1950年代の沖縄から中国への核攻撃計画も明らかになっている。台中の統一問題は米国のアジアにおける軍事経済覇権戦略、「中国封じ込め」戦略に関る米中問題であり、近年は日本・自衛隊の米国戦略への一体化による日中問題の様相を強めている。昨年、民進党に近いとされる台湾の学者らが米国の関与政策を批判する声明を発表した。同9月にノーモア沖縄戦の会の具志堅隆松共同代表が招請された台湾での講演会は「大国(日米)の介入」を批判、「在沖米軍基地撤去」の横幕が掲げられ、対話プロジェクトに登壇した台湾メディア関係者も参加した。同11月に那覇でノーモア沖縄戦の会が開いた講演会で台湾労働人権協会の講師は「台湾有事=日本有事論は、台湾を助けず、戦争を誘発する」と主張した。台中の統一、台湾の独立問題にとって、米日の戦略的関与の問題をどのように考えるか。対話プロジェクトでの議論は深まらなかったが、今後の重要な検討課題となろう。
対話プロジェクトは沖縄県の自治体平和外交の先導役となり、示唆を与えた。プロジェクトメンバー小松寛氏が自治体外交の指針を審議する万国津梁会議委員に選出された。
対話プロジェクトが目的に掲げた「対話による戦争回避」をどのように継承するかが課題だ。ノーモア沖縄戦の会は、沖縄・日本の戦争準備に反対する「国内連帯」、台湾、中国との対話。フィリピン、韓国などアジア、アセアン、米国市民に協力を広げる「国際連帯」、国連、国際社会への発信を図りたい。
- 【追悼】故・岡田充さん、最後のブログ記事 2024-04-26
- 【追悼】沖縄対話プロジェクトの呼びかけ人・岡田充(たかし)さん 2024-04-25
- 総括メッセージ訳文:英語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字) 2024-03-16
- 台湾対話プロジェクトの感想 新垣邦雄 2024-03-12
- 「沖縄対話プロジェクト」を終えて 与那覇 恵子 2024-03-12
- さまざまな対話の回路を持つ 高嶺朝一 2024-03-12
- 沖縄対話プロジェクトに参加して 神谷美由希 2024-03-12
- 「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクトに関わって 上里賢一 2024-03-12
- 対話プロジェクトの呼びかけ人をつとめて 泉川友樹 2024-03-12